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トークファイト 第1回
三代目魚武濱田成夫 VS 平直行

(2000年4月11日 自由が丘にて)

取材 : 東信太郎

どうも今日は忙しいところすいません。
魚武 いえいえ、どうも久しぶりですね。
そういえばお互い一児の父ですけど、お子さんいくつになりました?
魚武 七ヶ月です。平さんのところは?
三つになりました。
魚武 やっぱり将来は格闘家に?
いえいえ科学者にでもと…
魚武 同じ「か」がついても科学者ですかあ。お子さんお父さんが格闘家って分かってるんですかねえ。
いや、どうやらどこの家もお父さんはみんなリングに上がったりテレビに出たりしてると思ってるみたいですよ。
魚武 将来格闘家になりたいって言ったらどうします?
いやぁ、やるのはいいけど、素質の問題だから…
魚武 お父さんの血が流れているんだから素質あるでしょう。
まぁ、なんでも好きな事見つけてくれりゃいいです。僕も好きだから格闘技やってるわけで、それが仕事になれば一番いいんじゃないかな。
魚武 好きな事といえば、今度プロレス参戦しますけど、シングルですか?
シングルです。でも格闘家として異種格闘技戦のようなものじゃなくて、プロレスラーとしてでます。プロレスの時はプロレスラー。格闘技の時は格闘家っていうスタンスでいようと思ってるんですよ。
魚武 もう、必殺技とか考えてるんですか?
そりゃもういろいろ(笑)。
魚武 うわあ、楽しみだなあ。
プロレスラーと格闘家と指導者と三つの顔になっちゃいました。魚武さんは格闘技の経験は?
魚武 ええ、小学校の頃からずっと柔道を。最初は親父にむりやりつれて行かれたんですけど、行ってみたら楽しかったんですね。それまでは近所の小さい世界でしかなかったのが、地元西宮なんですけどね、外人が多かったんですよ。ほんとに急に世界が広がったようで楽しかったですね。それで中学に入っても続けてたんですけど、友達たちが中学に入ったら急に野球だサッカーだって言うんですよ。あれはショックだったなあ。それで寂しくなっちゃって道場やめて学校の柔道部に入ろうと思ったんですけど、そこが一目見ただけで分かるほど弱くて…。
―――プロレスも好きだったんですか?
魚武 家はおばあちゃんがプロレス大好きだったんで、小さい頃から見てましたね。おばあちゃんはストロング小林とアントニオ猪木のファンで、一緒に神戸のそごうに猪木のサイン会に行きましたよ。ちょうど僕の前で終わっちゃったんですけどね(笑)。当時はまだアンドレ・ザ・ジャイアントが来日したことがなくて、本職はロシアの木こりだとか言ってプロレスって凄い世界だなあって思ってましたね。
やっぱりいろいろ技の真似しました?学校の砂場やなんかで。
魚武 そりゃもうやりましたよ。砂場でもやりましたけど、道場通ってましたからね、ちょっと早めに行くんですよ、そうすると広い畳の上で遊べますからねえ、思いっきりプロレスごっこやってました。僕は異種格闘技戦ってやつが大好きで、近くに剣道道場もあったんで剣道対柔道なんていうのをやったりしてましたね。もちろん勝てるわけないんですけど、あいつら武器持ってますから(笑)。あとは友達同士でどうしても技がかけてみたくて1回50円でかけあったりしてましたね。ドロップキックなんかのちょと危険な技だと100円で。だってテレビで見てると本当にかかってるのかとか本当に痛いのかってわからないじゃないですか。だからどうしてもやってみたくてね。最後にものをいうのはやっぱり金なんですね(笑)。その後だんだん本格化してきて、体育館でマット相手にバックドロップの練習なんかして砂場での実戦に向かうわけです。それでいざ足四の字をかけようとすると、これがぜんぜん極まらない。空いてる方の足でがんがん蹴られちゃうわけですよ。終わったときには顔なんてボコボコで…。そこで!実戦から学んだ事をいかして数々の新必殺技をあみだしたんです。片足さえつかめばかけられる1本足四の字や新卍、新コブラ、胃ぐるりetc…。
どの技もプロレスで使いたい!
魚武 例えばコブラツイストってかけられてる方は片手が空いてるから上手く技がきまらないんですよ。そこで新コブラはまず両手を足で挟んで動けない状態にしてしまってから技をかけるから完璧に極まるんです。この話を漫画家の板垣恵介先生がどこかで聞かれて僕も会ってみたかったんで先生の事務所に行ったんです。「新卍とか新コブラってどういうの?」って言うんで、実際にアシスタントの方にかけてみせたんですよ。そしたら平さんがモデルのグラップラー刃牙で出してくれたんですよ!おまけに技術提供 三代目魚武濱田成夫って書いてあって、小学生の時に考えた技が漫画に載るなんて、あれは感激したなあ。
本当にプロレスで使っていいですか?
魚武 どうぞどうぞ、こっちがお願いしたいぐらいです。いろいろ技を考えたりしてましたけど実は僕、格闘家としてあってはならない事してたんです。
何ですか?
魚武 いかに負けるかです。柔道の試合で相手が強そうだったりするといかに負けるか考えるんです。実は痛いの苦手なんですよ。鼻血だしながら頑張ってる姿なんか見ちゃうともうダメですね。子供の頃丹羽君っていうライバルがいたんですけど、闘争心バリバリの子でね。まあライバルと思ってるのは向こうだけですけど、ある大会の時に耳元で「今日はおまえを巴投げしたる」って言われたんですよ。こっちは最初から負けるつもりですからね、巴投げなんて習ってないし、今日はただ負けるんじゃなくて巴投げされなきゃいけないわけです。もう組み手から力抜いてきれいに投げられちゃいました。きれいに投げられた方が痛くないですから。ああ良かったと思ったのもつかの間、無情にも「場外!」。おまけにその試合、有効やら押さえ込みやらで地味に勝っちゃったんですよ。丹羽君には妙に認められちゃうし、もっと強い相手とやらなきゃいけなくなっちゃうし、その時にはなるべく痛くないような技をかけられて、負けちゃおうとか、そんな事ばっかり考えてましたね。
でも痛くないように考えるのは格闘技の基本ですよ。強い奴ほど痛がりだし、俺も打つからおまえも打てみたいなタイプはすぐ潰れちゃう。
ご自分も柔道をやりながらプロレスを見てきて、最近ではK-1やバーリトゥードなどいろんな格闘技がありますが、魚武さんは今何に注目していますか?
魚武 子供の頃はプロレスしかなかったですからK-1やバーリトゥードを初めて見たときには衝撃的でしたね。プロレスも凄いけど、もっと凄い格闘技があるんだなと。プロレスを見てた時も純粋にプロレスだけよりも猪木対ウィリーとか猪木対アリなんていう異種格闘技が大好きだったんで、K-1でもキックボクサー対空手家とか、いったいどうなるんだっていうイマジネーションをかきたてられる試合が大好きですね。
柔術はどうですか?
魚武 市原海樹がホイスに負けた時はショックと言うよりも最強の中のひとつだと思っていた空手が負けて、今までの価値観が崩れ去ったような衝撃を受けましたね。今まであまり知らなかった柔術に一気に惹かれましたね。ヒクソンなんて華があるじゃないですか、ヒクソンの試合は見に行ってますけど、やっぱり強いですね。もう日本人でヒクソンに勝てるのは平さんしかいないんじゃないかと…。
これだけ柔術が最強と言われていますが、総合格闘技なんて言葉もない頃から平さんが模索していた理想の格闘技の姿が柔術だったんですか?
いえそういうわけじゃないんです。いろんな格闘技をやってみていちばんあってたのがたまたま柔術だったって事だけです。立ち技だけだったら柔術よりK-1選手の方が絶対に強いけど、投げたり極めたりもしたいじゃないですか。
魚武 いくら相手が強いパンチを持っていたって、押さえ込んで動けなくしちゃえばパンチの技術がなくても当たるわけだし。柔道でも寝技も極め技もありますけど、柔術はパンチまでありますからより実戦的ですよね。柔道をやっていた頃もそんな事を考えていた事があって、背負い投げや体落としじゃ受け身をとられたら大したダメージは与えられないけど、大外刈りで持ち上げたまま地面に叩きつけたらこれは効くんじゃないかと。やっぱりより実戦に近いという意味では柔術って凄いですよね。特にブラジリアン柔術はストリートファイトを想定してますからね。
いや、本当のストリートファイトならズドン!でおしまいですよ。柔術もなにもあったもんじゃない。
魚武 一対一なら柔術は強いでしょうけど、相手が多人数だったらどうするんですかね。
一回聞いた事があるんですけど、とにかくキックだそう。あと日本では一番強い奴から倒せって言われてますけど、ブラジルではその逆で、一番弱そうな奴をまず倒して、そいつを盾にして防ぎながら残りを倒してゆくのが必勝法らしいですよ。
魚武 ストリートファイトといえば、僕がまだ二十台前半の頃、友達とプロレスの話で盛り上がってたんですよ。もちろん新卍とか新コブラなどの僕があみだした技の話もでたんですけどね、みんな半信半疑だったんですよ。ちょうどその帰り道に僕が友達とちょっと離れて歩いてる時にガラの悪いのに絡まれましてね。俺の技を見せるのは今しかないと思いまして、絡んできた奴らにちょと待っててもらって友達を呼びにいったんです。「今俺は絡まれてる。手助けはいらないから技を見せるかわりに極まったら1万円くれ」って言ったんです。小学生時代に50円払ったように痛い思いするわけですからそれなりの報酬はもらわないといけないですからね。友達もOKしてくれて、相手の一番強い奴と一対一で戦うことになったんです。狙うのは一本足四の字、とにかくまずは相手を倒すことと足を取るだけ考えて、見事に一本足四の字が極まったんです。当然相手も片足で顔を蹴ってきますけど、そんな事は砂場プロレスで分かってますからね(笑)。がっちり極まった一本足四の字は相当痛そうで、相手は痛がりましてね、もういいかなというところで、すっかり興奮しちゃって僕言っちゃったんですよ、「ギブッ?ギブッ?」って(笑)。頭の中で小学校の砂場に戻っちゃったのかなあ。もちろん友達2人から2万円もらいましたよ。
相手は「ギブ」って言ったんですか?
魚武 もちろんですよ、「ギブ」って言わなきゃ離しませんもん。今思い出すと恥ずかしいですけど。
―――今後平直行にやってもらいたい相手や試合ってありますか?
魚武 特に誰っていうのはいませんけど、今まで見たこともないような技やとんでもない事してほしいですね。柔術にも空手にも入らないような新しいスタイルを見せてほしいですね。やっぱり平さんてリング上で華のある選手だと思うし、たまにお客さんを喜ばせるためにやらなくてもいいことまでやってくれるし。
ここだけの話、頭でKOされたのはたった1回しかなくて、あとは全部ボディだったんですけど、お客さんもある程度盛り上がったし、もういいかなって思ってそのままKO負けしたこともあるんですよ。マンソン・ギブソンに後ろ回し蹴りでKOされた時も本当は立てそうだったんですけど、半分意識が朦朧としてたんでそのまま寝ちゃいました。格闘家としてこれからも試合をしていかなくちゃならないですから、ある程度そういう部分も必要だと思うんです。
今一番強いと思う格闘家は?
魚武 う〜ん、難しいけど、ヒクソンを見たときの衝撃は大きかったですからねえ。子供の頃に出会ってたら絶対柔術やってましたね。男って誰でも強いヒーローを求めてるじゃないですか。相手の出方を読んで理想的な対処法を瞬間的に判断して技を繰り出していく格闘技ってある意味芸術だと思うし、格闘家はアーティストですよ。詩や小説を創るのと同じように、相手をいかに倒してタップさせるのかイメージしてそれを具現化していく。自分の表現したいものがあってそれを目に見える形にしていく点で芸術と格闘技って同じだと思うんですよ。それにいかに完成させてもそれを例えば詩であったら読んでくれる人に共感してもらわなくちゃただの自己満足なわけで、ある程度お客さんも意識しながら魅せて闘わなくちゃならない格闘家と通じる部分があると思います。プロレスというまた新しい舞台にでてゆく平さんの戦いぶりは楽しみですね。
僕も何をしてやろうか色々考えてるんですよ。でもさっきの必殺技は使わせてもらおうと思ってます。今日は忙しい所ありがとうございました。



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